童話館スタッフ思い出・イチオシ この1冊 第11回

私の思い出の1冊は『ポーラをさがして』(「小さいぺんぎんコース」およそ11~12才)です。
主人公のショーコちゃんは、両親にすすめられて、なんとなーく中学受験をすることにした女の子。まわりには、幼稚園から一緒で、親同士も仲がいい、半分家族みたいな友だちがいて、何不自由なく(は言い過ぎかもしれませんが)すくすく育った、しっかり者の優等生。
でも、「勉強は、自由になるためにする」という信念を持った、少し変わった塾に通うようになり、今までの友だちとはふんいきが違うカナちゃんと出会い、自分の常識が揺らぎ始めたり、塾の先生の言葉で、勉強する意味を考えたり。
カナちゃんたちと迷い猫のポーラをさがすことをとおして、ショーコちゃんも成長していきます。
私が一番印象に残っているのは、元・塾の生徒で、現在大学生のプーさんの言葉。
「これからキミが生きていくうえで、勉強したことは、すべて考える力のもとになる」
「ムダな勉強なんて、ひとつもないと思っていいよ」
「力のもとが大きければ大きいほど、いろんな考え方ができるんだ」
「考えることは、自由に向かう道のようなもので、自由はその先にある。考えて、考えて、もっと考えて、やっぱり、わたしはこう思う、だれになんと言われようと、こう思う。そんなふうに、自分の考えが持てるようになったとき、やっと、自由を手に入れたと言えるんじゃないかな」
なぜ勉強するのかという疑問に対して、ストンと入ってくる言葉たちで、子どもだけでなく大人も学ぶことが大切なんだと気付かされます。
また、あとがきでは、作者のさなともこさんが読者の方へ向けて、お手紙を募集しています。感想文ではなくて、お手紙。お返事まで書いてくださる、そんなさなさんの人柄にも触れることができるすてきなあとがきなので、ぜひ読んでもらいたいです。
さて、『ポーラをさがして』が私にとって特別な本である理由は、すてきな内容はもちろんですが、ふだんは出版業務に携わることがない仕事をしている私が、この本の付録を書くことになったからです。
『ポーラをさがして』を復刊するさい、編集者のひとりだった童話館の前社長川端強氏から「今度復刊しようとしている本があって、文中に算数の問題がでてくるけど、答えがわからなくて気になってしょうがない。この本を読む子どもたちも気になると思うんだよね。解答例を作ってくれない?」と、数学の教員免許を持っている私に白羽の矢が!
まだ製本されていない本を読んでみると(その状態の本を読むのもそれが初めて!)ショーコちゃんが解いている算数の問題がいくつか登場するけど、たしかに解答はでてこない!しかも、問題を読んでみると、なかなかむずかしい!これは気になる!
早速問題を解き、「できるだけわかりやすく」をモットーに、解答例とピタゴラスの定理の証明を書きました。4頁の付録ですが、製本されて記念にもらった本を手にしたときは、すごく感慨深かったのを覚えています。
その本に、川端氏が記念にと「数学的真理、歴史的真理、文学的真理が、私たちを自由へと導く」という言葉を書いてくれました。
果たして私は真理に近づけているのか。揺るがない自分の考えを持てているか。だれかの意見に左右されていないか。きっとまだまだ勉強し続けないと真理には近づけないんだろうな、と反省しつつ、自由を手に入れるためにがんばろうと前向きになれるそんな本です。
皆さんもぜひ、手にとってみてください。
(担当:N)
『ポーラをさがして』
さな ともこ/作
杉田 比呂美/絵
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「童話館ぶっくくらぶ」での配本コース ▶「小さいぺんぎんコース」(およそ11~12才)
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